Authentification Calon Ségur

ご質問等、お気軽にご連絡ください arrow

としょうかん, ノートブック

エディトリアル

特別な魔力に満ち、詩情あふれる場所があります。自然に、あるいは人の手によって景観がつくられ、まるで時間が止まっているかのような場所。訪れる人々の目を楽しませる美と静寂につつまれた場所。

カロン・セギュールにおけるワインづくりの歴史は12世紀にまで遡り、ここはまさにそのような場所です。

シャトーへと近づくとまず見えてくるのがクロ区画。敷地の四分の一ほどを囲む壁。ぶどう区画を縁どり、土地の起伏を丁寧につなぎます。いつの時代もそのつつしみ深いたたずまいで知られ、永遠の空気が流れ、支配しているかのようなドメーヌです。

北側にはゆったりかつ力強く流れる河があります。ぶどう畑はサンテステフ村に隣接し、面積55ヘクタール。地続きに広がります。畑構成は1855年、パリ万国博覧会を機にボルドーワインの公式格付けが作成された当時からまったく変わらず、まさに名門と呼ぶにふさわしい歴史を誇ります。

中央アプローチの両側にはぶどうの垣根が整然と並び、その奥には上品かつ細やか、「フランス式」に整えられた、直線が見事なシャルトルーズの庭園が広がります。

設備、建物、テラス... これまでほとんど装飾を加えたり和らげられることもなく、クラシカルな構成が守られています。エレガントで落ち着いた雰囲気の、洗練された空間が広がります

落ち着いた雰囲気の、洗練された空間に生まれる絶妙なバランス。

ある種の厳格さを感じさせながらも、ぬくもりに包まれた空間。

数世紀の時をへて、メドックでも最古級の歴史を誇るドメーヌ。歴代の所有者にはセギュール侯爵ニコラ=アレクサンドルがその名を連ねます。ルイ15世によって「ぶどう畑のプリンス」との異名を授けられ、その名以上にドメーヌの発展に尽くした人物です。アペラシオンを象徴する名門ワイナリーのひとつとして、その名声を永遠のものとしました。

これほどまでの文化遺産を委ねられる、それには社会的責任と義務が伴います。この場所を購入した数ヶ月後、2013年から現在まで、最大限の敬意を払いつつ、謙虚さと若干の畏怖の念さえいだきながら、ヴィドロ・グループ(Videlot)との協業のもと、シャトーの価値をさらに高めるための投資を推進してまいりました。カロン・セギュールのイメージ、つつしみ深さ、かくも豊かな歴史に配慮した改修を心がけました。

多数の専門家からアドバイスをいただき、才能あふれるスタッフのサポートもあり、第一線で活躍する方々から最上級のノウハウをご提供いただきました。誰もがすぐさまこのワイナリーの虜になりました。ここは、時空を超えたかのような、比類なき場所です。

改修にあたっては、最高クラスのグラン・ヴァン生産に対応可能な生産ツールの整備を目指しました。新たに生産棟および技術センターを建設し、1年目の育成・熟成庫を修築。円弧状デザインが特徴的な醸造庫を新たに建設しました。工事は建築家であるアラン・ド・ラ・ヴィル氏に監修いただき、生産部門スタッフとの細部にわたった意見交換をへて、機能的であるだけでなく、現代性の高い設計も取り入れました。その結果、「ひとつの村としてのカロン」本来のエスプリに忠実な空間が生み出されました。

シャルトルーズの修復は、ベルギー出身の内装デザイン建築家であるアンヌ・ドラース氏が担当。アラン・ド・ラ・ヴィル氏との貴重なタイアップ事業でした。一切の妥協をゆるさない、パッションあふれるプロジェクト進行。18世紀から受け継がれてきた、透明感あふれるピュアな空間を取り戻すことを念頭に、この場所特有のひかえめな雰囲気を損なわないよう、重厚な歴史を感じさせる調度品とコンテンポラリな要素との融合に気を配りました。

シャルトルーズ内の各レセプションルームや、歴史を感じさせる木製タンクの中に設置された1年目の育成・熟成庫へと通じる階段... いずれも素材、色調、家具のチョイスはもちろん、仕上がりの調和や美観、とにかく全体的な空間に格別の注意を払ったデザインです。

 

その他の名門ワイナリー同様、カロン・セギュールにおいても、ドメーヌとワインは密接に結びついています。ふたつの要素は個別に、あるいは共に、唯一無二のテロワール、唯一無二のオーセンティックな価値を具現化しています。我々にできること、それは、ぶどう畑が本来のアイデンティティを失うことなく発展を続けていけるよう、芸術のプロフェッショナルたちの叡智を集積させることでしょう。

ローラン・デュフォは2013年にドメーヌのトップに任命されました。グラン・クリュ・クラッセを知りつくした人物です。祖父はヴィニュロン、生粋のメドック人。ワイン業界の仕組みや通例にも精通し、ボルドーワイン取引業界からの信頼も厚く、コネクションも豊富です。ヴァンサン・ミレは自らの関心に正直に、理系分野から醸造学へと進路を変更。2006年からカロン・セギュールの生産部門ディレクターとして活躍。ぶどう畑をはじめ、醸造庫および育成・熟成庫における緻密かつ長期におよぶ作業に精力的に取り組みました。さらなる秀逸性を追求し、実に厳格な仕事ぶりです。

ローランとヴァンサン、いずれもシャトーでの自身の立ち位置をすぐさま把握し、役割を果たしました。シャトーに通年勤務するスタッフは総数50名強。シャトー・スタッフのサポートを得ながら、ぶどう畑の抜本的再編プログラムがスタートしました。2032年までにはカロン・セギュールの「脊柱」であるカベルネ・ソーヴィニヨンが全体の70%を占める予定です。

多岐にわたる長期プロジェクトを実現の軌道に乗せる... それは、時間によってもたらされる成果をないがしろにしない、我々経営陣の基本理念によるところも大きいでしょう。シャトー現オーナーであるアルケア・グループ(Arkéa)および系列会社シューラヴニール(Suravenir)は、これまでの歴史、事業発展の歩みの中で、数々の長期プロジェクトに取り組んでまいりました。また、「忍耐づよい投資家」と評され、時間との関係性を独自に培ってまいりました。短期間での財政上の成果を要求する一部の事業家とは一線を画するアプローチといえます。時間をかけた作品にこそあふれんばかりの繊細なテロワール表現が生まれる... ワインの世界と絶妙に響き合います。

6年近い歳月を改修工事に費やし、世界じゅうからプロフェッショナルの皆様をお迎えできる環境がようやく整いました。ワイナリーでは個性を異にする3種類のワインをつくり、愛好家の皆様にお楽しみいただいています。グラン・ヴァン「シャトー・カロン・セギュール」は、ドメーヌのイメージそのものです。稀有で心に訴えかけてくるワイン。あふれる優しさと凝縮感とのバランスが秀逸です。ドメーヌのセカンドワイン「マルキ・ド・カロン・セギュール」は、一層の親しみやすさが魅力。風味ゆたかで絹のようになめらか。偉大なる兄の影も感じさせます。サードワイン「サンテステフ・ド・カロン・セギュール」は、若株ぶどうを主な原料とし、みずみずしく果実感にあふれ、ダイナミックな味わいを特長とするワインです。

これら3種類のワインは、口に含んだ際の味わいに共通点が見られます。また、2013年には「エスプリ・ド・ファミーユ(家族らしさ)」をコンセプトにワインラベルをリニューアル。そこにもカロンらしさを感じていただけるでしょう。いずれもハートのマークを中心に飾り、それぞれのスタイルを表現したグラフィックデザイン。ハートは18世紀からドメーヌのシンボルマークとして使われ、セギュール侯爵が残したかの有名なフレーズ、「ラフィットやラトゥールでもワインをつくるが、わたしの心はカロンにあり」に由来します。

カロンとハートマークを結ぶこの逸話は、フランス・フィニステール県出身のわたしにとっても特別な意味があります。ブルターニュの言葉では、心のことを「kalon」と呼びます。不思議なご縁に感動を覚えずにいられません。


ブレーズ・パスカル以来、「心には理性ではわからない道理がある」と人は言いますが、すでに心と理性が合致するこのような場所では、さらにスケールの大きな時代の幕開けが期待されます。ルネサンス期に匹敵する、カロン・セギュールのルネサンスと呼ぶべき時代の幕開けです。




ジャン=ピエール・ドゥニ Jean-Pierre Denis

グループ・アルケア会長